2020年12月に施行された改正漁業法に基づく、新たな資源管理(科学的根拠に基づく管理、TAC管理の推進など)について、依然として漁業者・漁業者団体からの懸念や反対が収まっていません。
4月13日の自民党水産部会では、TAC管理の推進によって漁獲量が減少して経営が悪化することへの懸念が漁業関係者からあげられたほか、北海道漁連からはそもそもTAC管理ではなく自主的な資源管理を継続することが望ましいとの要望が表明されたことなどが、朝日新聞などの一般紙でも報じられています。
このように、反対の多いTAC管理ですが、そもそもなぜ、改正漁業法にてTAC管理が推進されたのかを振り返ってみたいと思います。
日本ではもともと、伝統的に、漁業者自らが話し合って資源管理に取り組む自主的資源管理が行われてきました。そして、その方法は、漁期や時間の制限、編み目のサイズの調整、漁船の大きさの制限などのインプットコントロールでした。
こうした日本型の自主的資源管理は、漁業者自らが納得して取り組むことや、相互監視が効くことから、遵守率が高く、監視コストが低いこと、管理が柔軟であることなどのメリットがあります。
一方で、自主的資源管理のデメリットとしては、
・広域資源や漁業種間の調整が行われにくいこと
・本格的・抜本的な取組が回避されやすいこと、
・客観的根拠(科学的根拠)が弱く、説明責任が不十分であること
が挙げられます(牧野光琢『日本漁業の制度分析』p71)。
このため、一部の魚種では、自主的資源管理のみでは、適正な漁獲圧よりも高い過剰漁獲の状態による資源の減少、もしくは「管理をより適切に行っていれば資源の水準をもっと高く維持できたものや、もっと早く資源回復ができた事例」もありました(八木信行編『水産改革と魚食の未来』p5)。
そうした中で、世界の水産政策の潮流は、科学的根拠に基づき漁獲上限を厳密に設定するアウトプットコントロールとなり、国連海洋法条約の中でも、沿岸国が漁業資源を管理する際に、漁業資源の最大持続生産量(MSY)を維持するという管理目標を達成するように漁獲可能量(TAC)を決定し、保存措置をとる義務などが課されている中で、日本も本格的にアウトプットコントロール(TAC管理)の推進に舵を切ったという流れです。
アウトプットコントロールは、一定の条件の下で適切に機能した場合には、厳格な数量制限が行われることから、資源管理の高い効果が期待されます。
一方で、アウトプットコントロールのデメリットとしては、
・関係する漁業種類や地域が多数にのぼる魚種では、合意形成や枠の配分に複雑な調整が必要であること
・複数魚種を管理する場合の、混獲問題などへの対応の必要性
・漁業者数が多い場合には、監視コストが高くなること
・前提として、資源評価の精度が高い必要があるが、一部の魚種では、資源予測を高いレベルで行うことが難しい場合があること
が挙げられます。
こうしたことを踏まえると、結局は、インプットコントロールとアウトプットコントロールのどちらかが優れているかということではなく、両者のよい点を組み合わせながら、魚種ごとに異なる状況に応じて、効果の高い管理を実施していくのが望ましいのだと思います。
(続く)
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