熊本県産との表示で全国に出荷されていたアサリが、実際には中国産のアサリで、偽装が発覚しにくいように、短期間(1週間から半年ほど)熊本の砂浜に埋めて養殖したと見せかけていた問題が発覚しました。
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食品の偽装表示は、昔からある話で、ときどきニュースになります。
食品の表示に関するルールの整備も行われてきていますが、事業者の手間やコストを考えると、どこまで厳格なルールを定めるのかは、難しい問題です。
刺身を1種類販売する場合には、産地を表示する必要がありますが、2種類以上の魚を盛り合わせて販売する場合には、全て産地を表示すると大変なので産地表示の義務がなくなります。
複数の場所で生産された場合には、最も長い期間おかれた場所を生産地として表示することが定められているため、中国で6ヶ月育てられ、日本に輸入されて更に7ヶ月育てられた場合には、国産と表示することができます。
今回の熊本のアサリの事件は、この制度を悪用して、ほとんど中国で育てられたにもかかわらず、日本でより長い期間かけて育てたと書類を偽装することによって、日本産と表示していました。
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このような偽装を防止するためには、まずは、表示のルールを変えて、複数の場所で生産された場合には、複数の場所を産地として表示するようにすべきです。今回の場合であれば、例えば「熊本(中国)」というように書けばよいのではないでしょうか。
それでも、偽装をする事業者は、中には出てくると思います。
世の中には色んな人がいますし、生活に困っている、みんなやっているからなどの理由で、バレないと思えば、偽装の表示をしてしまう事業者は必ず出てくるでしょう。
それを防止するためには、食品のトレーサビリティ制度を導入して、その食品が、どこで生産されて、どのような流通経路を経て販売されているかが、分かるようにすることです。
既に、牛肉では、2001年に生じた牛肉偽装事件を契機として、トレーサビリティが導入されています。
現在では、テクノロジーも進化しているため、以前よりもトレーサビリティ制度を導入するハードルはさがっていると思います。
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それでも、トレーサビリティを実施するとなれば、やはり事業者にとっての手間は今よりは増えることになります。
マイナンバーの導入に多くの国民が反対したのと同様に、何らやましいことがなかったとしても、政府によって管理されることに反発を覚える事業者が多いのは、当然かもしれません。
そうした事業者の反発を乗り越えて、トレーサビリティを導入するためには、次のようなことが必要と考えられます。
食品への信頼を確保するためにトレーサビリティを求める(そのための一定のコストを容認する)という国民の声
トレーサビリティの機能として、不正の防止だけではなく、生産現場の情報や生産者の動画などをつけることができるようにする、消費者の反応をフィードバックできるようにするなど、プラスの価値を(オプションで)加えられるようにする
また、トレーサビリティのために入力する漁獲情報とのデータを活用して、操業の効率化やAI分析などによる収益向上に結びつけられるようにするなど、事業者にとってのメリットを増やすことも必要と思います。
一部の魚種で先行して導入するのがよいのか、水産物全体(食品全体)で制度を導入するのがよいのかも、議論が分かれると思います。
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今回の事件を契機として、トレーサビリティの導入に向けた議論が更に進むとよいと考えます。
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